おれ、らも

同居していた彼女がいなくなって何度目かの朝。一人分ポッカリと空いた空間は部屋全体を冷たい印象にしていた。まだ慣れなかった。満員電車に揺られ、どうして彼女がいなくなったのか考える。しかし、これといったことが思いつかなかった。これといったこと…

そこは、病院の喫煙所。嫌煙の進む時代の余波からか、病院といっても院内にあるわけではなく、門を出て右に徒歩数十秒ほど行ったところに設けられている。トタンの屋根と壁に、むき出しの鉄の骨組み。道路側の面に壁はなく吹きっさらしで、まるで田舎のバス…

冬の朝

「間に合わないかもな…。」 歩きながら、揺れる携帯のディスプレイに映し出される時刻を見て呟く。携帯と左手をコートのポケットに仕舞い、それから右手に持つコーヒーを口にする。やっぱり、いつもより苦い。ブラックは失敗だったなと改めて思う。 失敗とい…

可能性の話

自殺遺伝子、なるものが存在するらしい。ただ立証はされていないので、存在を断定することはできないが、一つの仮説としてあるようだ。 どういったものかといえば、言葉の意味通り、自殺に促す遺伝子。 つまり、自殺という行為が本人の意思によるものでなく…

名作

今日、映画館でいわゆる「名作」といわれる作品を鑑賞したのだが、「名作」を観ていると、何故か妙な眠気に襲われる。それはその歴史的価値が大きいほど、より強まってくるように感じる。 価値とはつまり観た側の声の集積であり、それが強固になるにつれ、ど…